こんにちは。
北海道フードマイスターで管理栄養士の栄よう子です。
最近、ファスティングについて聞かれることがありましたので、今回はそのファスティングについてお話したいと思います。
ファスティングとは?
ファスティングとは、英語で「断食」を意味します。
無論、日本で話題のファスティングは宗教的なものではなく、主に健康意識の高まりが発端です。
ファスティングの目的は人によって様々ですが、主にこの3つが多いでしょう。
- 疲労回復
- 健康のため
- 美容のため
「断食道場」や一部のクリニックでは、ファスティングをサポートしてくれる所もありますが、その数は少なく高額であることから、とりあえず自分でやってみる方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、ファスティングを試したい方、ファスティングに興味のある方を対象に、ファスティングに必要と思われる予備知識を始め、注意事項などについて解説したいと思います。
効果と仕組み
よく言われている効果がこちら↓
- 腸内環境が整う
- 免疫細胞の活性化
- 代謝が上がる
- 疲労回復
- 肌荒れの改善
- ダイエット など
これらが言われる理由には、「オートファジー」という仕組みが関係しています。
オートファジー
ファスティングを語る上で欠かせないのが「オートファジー」です。
この「オートファジー」は医学研究において注目度が高い、急成長している分野になります。
そのため安易なことは言えませんが、現段階で分かっていることは以下の通りです。
オートファジー
https://www.amed.go.jp/news/release_20200820-02.html
細胞内の不要な構造物を分解し、新陳代謝を担っている機構である。オートファジーでは、まず隔離膜と呼ばれる扁平な膜が細胞質内に出現し、分解基質を取り囲みながらオートファゴソームを形成する。このオートファゴソームが分解酵素を多量に含むリソソームと融合し、内容物を分解する。不要物の蓄積を防ぐことで、オートファジーは様々な疾患の発症を抑制していると考えられている。その重要性が認められ、2016年に大隅良典博士がオートファジー機構の発見をしてノーベル医学・生理学賞を受賞された。
オートファジーに「選択性」があることが判明
オートファジーと関連の深い疾患として、もっとも顕著なのが神経変性疾患です。パーキンソン病の原因遺伝子であるParkinとPINK1は、傷ついたミトコンドリアや異常なミトコンドリアを分解するオートファジー(マイトファジー)を起こし、ミトコンドリアの品質管理をしています。しかし、マイトファジーが働かなくなることで不良・異常ミトコンドリアが蓄積されてパーキンソン病を引き起こすことがわかっています。ほかにもオートファジー関連遺伝子の変異によって、SENDA病やVici症候群といった重篤な神経変性疾患が起こることがわかっています。
最近の研究では、「究極の生存戦略」と「恒常性の維持」という基本的な生理機能のほかに、幹細胞の維持機構や老化制御、環境応答、分化などにも働いていることがわかってきています。そういうことはオートファジーの基本的生理作用だけでは説明がつかず、選択的オートファジーを理解することが不可欠です。
https://goodhealth.juntendo.ac.jp/medical/000296.html
最近の研究で明らかになってきたオートファジーの重要な役割として、細胞の新陳代謝(代謝回転)と細胞にとって不要あるいは有害な物質の除去があります。ヒトなどの動物は食物としてたんぱく質を摂取・分解しますが、それとは別に自己の体たんぱく質を一日に1-2%(成人男性で約200g)も分解しており、しかもそのうちの70-80%は再びたんぱく質合成に使われます。つまり、毎日壊しては造るということを繰り返しているのです。
https://yoshimori-lab.com/research/%E6%AF%8E%E5%BA%A6%E3%81%82%E3%82%8A/#:~:text=%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%B8%E3%83%BC%EF%BC%9DAutophagy%E3%81%AE,%E3%81%99%E3%82%8B%E6%A9%9F%E8%83%BD%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
医学的根拠
しかしファスティングに関して言えば、未だ研究が進められている分野に変わりはありません。
よって、「ファスティングの正しいやり方」という表現も、今ひとつ違和感を感じたり感じなかったり・・・・・
どちらにせよ、新しい情報に目を向ける際は、今ある現状の課題(リスク)も忘れないことが大切です。
では、少し雑談を挿んでからそれらを解説していきたいと思います。
断食は極端なのか?
日本には宗教上の理由で断食する習慣がないので、断食というと、「何も食べない」「なんて極端な・・・」など、かなりストイックでネガティブな印象を受ける方も多いのではないでしょうか?
私も新卒時にイスラム教徒の患者さんが断食しているという話を聞いて、初めて身近に感じました。
ただし、断食するのは日の出から日没までだそうで、何も口にしない訳ではないようです。
もちろん、断食のルール(方法)は宗教によって違うのですが。
さて、断食は極端なのか?についてですが、それはどちらも言えると私は思います。
厚労省が示す理想的な食習慣や食事バランスガイド等からすると断食は極端です。
が、人類の歴史からするとある程度の断食は極端でないとも取れます。
人類の歴史
詳しいことは分かりませんが、かなりざっくりまとめてみました。
氷河時代
気温の変化についていけない動物が次々に絶滅していく中、たくましく生きる。
旧石器時代
採集、狩猟、漁労などがメイン。
マンモスを追って日本列島に渡り、のちに日本人となる。
縄文時代
マンモスなどの大型動物は姿を消し、シカやイノシシなどを食べる。
徐々に作物の栽培も始まった。
弥生時代
米の生産が一般的になり、食料事情が飛躍的に改善されるが、土地と食物の奪い合いが勃発。
奈良時代
土地を与えられると同時に重い税制も開始され、おまけに天災や飢饉で米は一粒残らないことも。
鎌倉時代
貴族・武士・庶民という階級毎の食事となるが、全体的に質素であった。
室町時代
戦は絶えないものの、食べ物の輸入や農業の進歩、調理法の発展などにより、食文化は大きく発展する。
安土桃山時代
精進料理や懐石料理など、膳にのせられた日本料理が誕生する。
江戸時代
1日3度の食事が定着するが、庶民は一汁一菜が基本。
明治時代
洋食文化が入ってきたことで、米に合う和製洋食が考案され始める。
北海道開拓組はジャガイモ、トウモロコシ、麦などを主食とし、アイヌの知恵を授かりながら開拓に励んだ。
昭和時代
戦争で食料は配給制となり、戦後も深刻な食糧難が続く。
高度経済成長期を迎えると、食生活や食文化が大きく変化し、高度経済成長期初期は、バランスのとれた食事「日本型食生活」と称された。
その後、飽食の時代に突入し現在に至る。
※ ※ ※ ※ ※
と、まあこんな感じ(たぶん)。
とにかく長い歴史で考えると、飽食はついこの間始まったようなもので、飢えていた年数が圧倒的に長いということ。
倹約遺伝子を持つ日本人が多いのも、その名残(遺伝子)とするならば、飽食の時代に敢えて断食することは理にかなっているかもしれません。
厚労省の示す規則正しい生活習慣を身につけ、バランスの良い食事を腹八分、毎日取り入れられることが理想であることに変わりはありませんが、それが難しい方やつい食べ過ぎてしまう方は、意識的に食事を控えることも必要でしょう。
単に食糧のない時代を過ごすのと、食べ物がすぐ手に入る状況で敢えて食べずに過ごすのとでは、当然心の持ちようにギャップがあるわけで、我慢はしてもストレスを感じるようなら一旦中断して、他の方法を試すもアリだと思います。
個人的な意見を言うならば、ファスティングの1番のメリットは食のありがたみを再認識すると共に、食生活を見直すきっかけになることです。
したがって、ファスティングで得た気づき(学び)を良い形でその後につなげられるかどうかはとても重要であり、そこが管理栄養士の責務であるとも感じます。
かなりお節介ですが、お節介に付き合うよという方は続きもどうぞ。
向いていない人
ファスティングに向いていない人(やらない方が良い人)を以下にまとめてみました。
ファスティングに興味のある方やファスティングをこれから始めようと思っている方は、以下の点に注意してみてください。
痩せている方
痩せている方のファスティングは危険です。
美容のために始めたとしても、筋肉や骨というのは残念ながら付いていてほしいところから無くなってしまうため、かえって老けて見えてしまうことも…
BMIが22(適正体重)以下の方は控えた方が良いでしょう。
摂食障害
極端な食事制限ができる人は、かなり頑張り屋さんで完璧主義者が多いです。
しかし極度の我慢は、自分が気づかない間に心のコントロールを失ってしまいます。
一つの方法にこだわり過ぎず、できるだけ柔軟な気持ちで自分の身体と向き合えると良いですね。
骨粗鬆症
骨粗鬆症は一般的に高齢女性の発症リスクが高い傾向にありますが、ダイエットを繰り返していた人も骨粗鬆症になりやすいです。
ただし、カルシウムの過剰摂取は、高カルシウム血症などのリスクがあることから耐容上限量が設けられています。
通常の食事で耐容上限量を超えることは稀ですが、サプリメントなどを利用する場合には注意が必要です。
高齢者の痩せ
高齢者の痩せ(低栄養)は健康日本21でも重要課題とされています。
【高齢者の痩せが影響するリスク例】
- 感染症、褥瘡、創傷治癒の遅延
- 転倒や骨折のリスクが増加
- 認知機能の低下
また高齢者では、疾病及びフレイルの予防として、BMIの目標値が21.5〜24.9に設定されており、18.5以下は注意が必要です。
ダイエット目的の方
ダイエットというのは、目標のために長期継続が必要との理解が浸透しているため、限定的に行うファスティングにそれを当てはめてしまうと誤解を招くおそれがあります。
また、ダイエット目的のファスティングはリバウンドの可能性が高いです。
ダイエット目的でファスティングをする際は、適度な運動も取り入れながら長期的に計画を立てて行うことをおすすめします。
授乳中、妊娠中の方
授乳中、妊娠中の方は病院や保健所で受ける指導を優先しましょう。
生理中も避けた方が無難です。
妊活のためにファスティングを推奨するような記事も見かけますが、日本では若い女性の「痩せ」が問題視されています。
そういった方が無理にファスティングをすると、妊活どころか生理不順や無月経、低血圧、不整脈などの健康障害を招く恐れがあります。
ちなみに、妊娠中の体重増加不足は、低出生体重児(2,500g未満)の原因の一つです。
妊娠に気づいてからではなく、妊娠する前からの食事が、自分と将来生まれてくる子供の健康にとって大事であることを理解し、適正体重の維持とバランスのとれた食生活を目指せると良いですね。
服薬中、持病のある方
薬は、一定の血中濃度がある時に効果を発揮するため、それより低いと効果が得られず、高すぎると副作用を起こす場合があります。
また、食事を食べずに薬を飲むと、胃粘膜を刺激することがあるため、消化器官を休めるどころか、かえって逆効果です。
そのため、服薬中の方、特に「食前・食間・食後」と服用時間が決まっている方は控えた方が良いでしょう。
持病がある方も、まずはそちらの食事療法を優先し、担当の医師や管理栄養士に相談してみてください。
注意事項
ファスティングをして、頭痛や吐き気、発熱、倦怠感、便秘、眠気などの症状が出た時に「それは体の毒素が出ているから」「効果がある証拠」などといって使用継続をすすめるのは、いわゆる「好転反応」のことを指しますが、表現自体が薬事法違反にあたります。
「好転反応」に科学的根拠はないため、商品説明の表現として好転反応をうたうものには十分注意しましょう。
※ ※ ※ ※ ※
以上です。
既に理想的な生活習慣や食習慣が身についている方は、特に必要ないでしょう。
しかし、どうしてもそれが難しい方やつい食べ過ぎてしまう方は一度試してみても良いかもしれません。
とは言っても、極端な食事制限はかえって体調を崩すこともあるので、それを好転反応と勘違いして無理をしないことも大切です。
ぜひご自身の生活習慣、体質に合った食習慣を模索してみてください♪